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人生に寄り添った街づくりを

自分の住んでいる街について、みなさんはどのくらい知っているだろうか。他の街との違い、良い部分、悪い部分…。地方自治体は、みなさんに選んでもらうために日々努力をしており、私たちはそのことを知った上で、住む街を決めたり、制度を活用していかなければならない。そして、街をより活気溢れるものにするために、デザインやイラストなどの力を今よりもっと活用していくこともできるのではないだろうか。
東京近郊でも注目されている、神奈川県海老名市。サンバードの上原も住んでいる、なじみの深い街だ。今回は、その内野市長(以下:内野)と倉橋市議会議長(以下:倉橋)にお話を伺った。

ほどよく都会、ほどよく田舎という魅力

――この度はありがとうございます。突然のお願いにも関わらず、快く請けていただきまして。

倉橋:
いえいえ、やはり「街をよくしていこう」という取り組みをしても、それを知ってもらわなければ意味がないので。
内野:
もっとたくさんの人たちに海老名という街を知ってもらって、そこから住みたいと思ってもらえると嬉しいですね。

――僕は、海老名に住み始めたのが、ここ4、5年くらいなんです。おふたりは生まれも育ちも海老名とお聞きしていますが、個人的に好きな部分とはどういったところでしょうか。

倉橋:
昔は海老名って本当に何もなかったんです。それこそ、私たちが子どもの頃なんて見渡す限り水田ばかりで。
内野:
そうですね。学校の窓から外を見るとずっと田んぼで、駅の周りも水田でした。それが、必要に応じて発展していった。他にも色々とあるのですが、海老名の一番いいところって、“ちょっと都会でちょっと自然”というところだと思うんです。
倉橋:
ご覧の通り、駅周辺はショッピングモールで賑わっています。でも少し車を走らせると、結構田舎なんですよ。でも、それが住みやすさにつながっているのではないでしょうか。

――確かに、たとえば都心の方なんて高いビルがいっぱいあって、人混みなんかも息がつまりそうだなと感じてしまいます。でも海老名は、中心部に行けば何でも揃うくらい便利なんですが、少し離れると子どもたちをのびのびと遊ばせることができたりします。

内野:
いわゆる、「コンパクトシティ」ですよね、目指すところは。必要な部分は発展させつつ、カブトムシなんかがいるような山は残していきたい。やはり自然を破壊していく街づくりというのはダメだと思うんです。

――ちなみに、市長や市議会議長という、政治に関わる側として「海老名の魅力」を語るとしたらいかがでしょう。

内野:
ありきたりかもしれないのですが、「安全、安心」という部分でしょうか。海老名は本当に犯罪が少ないんですよ。
それは、我々自治体と地域の皆さんが、連携を密にしている結果であると自負しています。
倉橋:
自治会やPTAの方々が、地域を巡回してくれているんです。青パトって知っていますか。

――パトカーのパトライトが青いやつですよね。あれって警察じゃないんですね。

倉橋:
そう、あれは地域の方が防犯のためにやってくれているんです。
内野:
加えて、情報の開示を徹底していますね。どのくらい犯罪が起きているのかという。それによってどんな犯罪が市内で起きていて、取り組みによってどの程度減少しているのかも知ってもらえる。するとより効果的な防犯につながります。

――どのようなところで、その「安全、安心」ということは実感できるでしょうか。

内野:
もちろん、近年になって犯罪が大幅に減少していることが数字でも表れています。昨年はついに1000件を下回りました。これは海老名駅東口にある大型モール「ビナウォーク」が開業する前の4分の1の数字です。映画館のエピソードなんか海老名の治安の良さが分かりやすいよね。
倉橋:
ああ、あれですね。中心部に映画館が2カ所あるんですが、横浜や小田原から訪れる人が多いんですよ。その理由が「安全」だから。子どもだけでも来てくれたりしていて、親御さんも海老名なら安全だからと思ってくれているのではないでしょうか。

――それはすごいですね。あとは、やはり交通の利便性というところは市にとって大きな魅力ではないでしょうか。

内野:
鉄道3路線が乗り入れ、高速道路へのアクセスもいい。この都心へのアクセスが良いことと、治安のよさが相まって、皆さんが「住みたい」と感じてくれているのだと思います。

市民のニーズに寄り添う発展を

――さまざまな海老名の魅力をお聞きしましたが、より良い街にしていくために行なっている施策について教えていただけないでしょうか。

内野:
私たちは「住みたい 住み続けたいまち 海老名」というスローガンを掲げています。ただ、「住みたい」と「住み続けたい」は異なるものです。
「住みたい」とは、外の方々に選んでもらうということ。「住み続けたい」は、昔から住んでいる方々に選んでもらうということです。それは、新しい魅力を創出していくと同時に、古くからの魅力を守っていかなければならないんですよね。
倉橋:
海老名は交通の要所として発展を続けていますが、先ほどおっしゃっていたような都心部の賑わいを目指してはいないんです。
だから、中心部は民間と協働して商業施設や高層タワーマンションの開発を進めていますが、一方で田園風景をはじめとする市民の憩いの場は残していきたい。

――そういった街づくりをしていく上で、どこかの街がモデルケースとなっているということはあるのでしょうか。たとえば、都心へのアクセスという利便性ということが特徴である武蔵小杉なんかは、素人目で見ると近いような気もしますが。

内野:
武蔵小杉は、もともとが工業地帯なんですね。海老名はもとが農業地帯という違いを始め、周囲の自治体の構成や関わり方ももちろん異なりますよね。
地域の発展というのは、その土地の特性もありますが、周辺の自治体との連携も欠かせないものなんです。したがって、参考にする部分はあれど、そっくり真似をしても同じように発展するとは限らない。“海老名市民ならではの必要性”に寄り添っていくことが大切なんです。

――具体的な施策としてはどのようなことを行なっているのでしょうか。

倉橋:
先ほども話にありましたが、地域や警察と連携しての防犯や交通安全は力を入れていますね。やはり住み良い街というのは、安全が基盤となるものですので。
内野:
あとは、転入してきてくれる方々への補助も手厚くしていますね。若者向けには奨学金返還補助制度や家賃補助制度。若い世帯向けには、子育て制度の充実も図っています。
人口が増えていくに伴って、駅や教育機関の再編も計画しています。

――転入してくる人たちの目線からすると、そういった手厚い補助はもちろんありがたいのですが、「発展の継続性」ということが非常に気になるのではと感じます。
新興住宅地では、大々的にマンションを売り出しておいて、数年後には結局ゴーストタウンにという例もありますし。

内野:
それこそ、海老名のケースでいえば、ほどよい発展ではないでしょうか。「住みたい 住み続けたい」を実現するためには、急激な変化はいけない。あくまで、住民のニーズに寄り添ったものでなければならないのです。「人の人生を考えた街づくり」が大切なんですよね。
倉橋:
ただし、すべての人が納得するということはあり得ない。たとえば、蔦屋書店やスターバックスを併設している海老名市立中央図書館なんてそうですね。設立当初はそれこそ物議を醸しました。
でも結果として、市民の憩いの場のひとつとして機能し、他の地域からの流入にも一役買っているでしょう。課題の解決とそれによって生じる批判、双方を天秤にかけて慎重にジャッジする。この積み重ねが、より良い街への一歩なんです。

企業と同じく経営という視点が政治には必要

――安倍首相になってからか、近年では若者の政治に対する関心が強まっている気がします。しかし、国政ももちろん大切なんですが、より身近なものが市区町村といった地方自治体の政治だと思うんです。

内野:
正直言って、我々もそれを苦慮しているんです。最も市民から近い存在であり、最も現実的なところで動いている。それが私たちだと思っているんです。そうした私たちの取り組みについて、もっと知ってもらいたい、興味を持ってもらいたいという一心で、市議会のインターネット中継であったり、instagramやfacebookなどSNSでの情報配信であったりをしているのですが。
倉橋:
それでも、私たちだけでは知ってもらうにも限度があるんです。それこそ、サンバードさんのようなデザインやイラストの制作をしているような企業と連携し、広告的な観点で効果的にシティプロモーションに取り組んでいかなければならないんです。

――きっと企業だけでなく、一個人のイラストレーターやデザイナーでもやり方さえわかればできることはたくさんあるのだと思います。
ちなみに、なかなかお恥ずかしい話なのですが、そもそも市長であったり議会であったりの役割とはどんなものなのでしょうか。きっと義務教育で学んだはずなのでしょうが…。根本的な仕組みがわからないから、距離があると感じてしまう人も多いと思います。

内野:
確かに、市長と一言でいわれても、なんとなく市長室で判子を押している人くらいのイメージかもしれませんね(笑)。
倉橋:
一般企業でたとえるとわかりやすいかもしれませんね。市長とは企業でいえば社長です。社員にあたるのは市役所の職員で、執行権、つまり実行力があるんですよ。
対して議会は外部取締役のようなものです。市長が提案する施策が、果たして市民にとって妥当なものであるのか。そして、予算を割くのに値するようなものであるのかをジャッジするんです。

――最終決定権が市長にあるのではないんですね。

内野:
そうですね。あくまで発案するのは市長サイドですが、議会の承認を得なければ何もできない。こうして一緒にインタビューを受けていますが、お友だちという訳でもなく、議会ではやり合うこともありますね。
倉橋:
やはり、市民の皆さんすべての賛成を得たいとは考えていますが、現実的にそういうわけにもいかない。否定的な意見が批判になっていくのですが、それを押し切ってでも変わっていかなければならないこともある。
しかし、それを市長サイドだけで決定してしまうのは危険です。何万人もの生活が左右されてしまうのですから。

――聞けば聞くほど、企業の形と似ていますね。

内野:
それは仕事意識だって同じですよ。「私たちは公務員だ」なんて思っていたらダメですね。「都市経営」という言葉がありますが、経営の観点を持っているべきなんです。
目先のリスクを取ってでも、将来的な住民の幸せやメリットを考える。企業だって、目先の利益だけにとらわれると、のちに破綻してしまうことがあるでしょう。ときには投資することも大事なんですよ。
倉橋:
だから、議員や首長を選ぶ際も「この人たちは、市の未来をしっかり見据えた政策を考えているのか」ということを考えて欲しいんです。目先の数字やお得感に目がいきがちかもしれないですが、それこそ10年20年先のビジョンを持っていることが重要です。その選ぶ人たちが身近であり、それだけに意見が反映されやすいのが市政という場なんです。

若い感性に行政が歩み寄ること

――先ほど、企業であったりクリエイターであったりとの協業というお話がありましたが、公式キャラクターの「えび~にゃ」をはじめとしたさまざまな施策を積極的に行なっていますよね。

内野:
こういった施策の一つひとつが、いわゆる“シビックプライド”の醸成につながっていくのだと考えています。それが一方向だけではダメで、一定の層には受け入れられてもそうでない場合もある。だからこそ、さまざまなプロモーションをしていくことが大切ですね。
倉橋:
そのひとつが、DA PUMPのKENZO氏が曲と振り付けに協力してくれたEBINAダンスなどですね。それも動画配信という単発で終わらせるのではなく、市内のイベントでパフォーマンスを行なったり、市制施行50周年にはダンスイベントの開催を予定していたり、継続した発信をしていくことが必要です。

――たとえば、コラボレーションのひとつとして、有名なものとしてはアニメやドラマでの町おこしがありますよね。

倉橋:
これまでもドラマの撮影などに協力したことはありましたね。ただ、協力する判断基準にしているのが、そのタイトルの知名度より、「市にとってプラスになるか」という部分で賛同できるかです。
内野:
結局、成功しているケースは、そのタイトルに乗っかるだけではなく、街自体が一体となって「盛り上げていこう」という形になったときだと思います。
その気運を醸成するためには、説得力が必要なんですよ。住民も、地元企業も、「この企画になら協力したい」と感じるようなものであれば、二つ返事で私たちとしても協力したいですね。

――海老名の資源を活かすために、PRの方法は模索しているということですか。

倉橋:
実は海老名も色々あるんですよ。かつては『ゴジラ』の特撮美術に関わった企画事務所があったり、伝統工芸であれば江戸独楽や太鼓づくりに関わる方々もいます。
アピールする素材があるのに、これまではなかなかタイアップするということはしていなかった。だからこそ、どういう形で連携して展開していくのかはこれからの課題ですね。
内野:
実際にデジタルサイネージを活用したり、さまざまな手法を試してはいます。やはり映像であったりイラストであったりデザインだったり、絵的な手法でのアプローチがこれからは重要ですね。
若い感性に、行政が積極的に歩み寄っていかなければならない。
だから、ぜひさまざまな方に興味を持ってもらって、力を貸して欲しいんですよね。

――行政とのやりとりに慣れている企業はともかく、私たちのような新参だとなかなかシステムもよくわからない部分が多いです。

倉橋:
基本的には、プロポーザル方式になっていますね。達成したい目的がこちら側にあって、その企画を提案してもらっています。
そこに企業であるか個人であるかは関係ありません。
内野:
私としては、それこそ面白いことしかやりたくない。でもそのためには、我々が「こんなことをやりたいから力を貸して欲しい」ということも、もっと周知しなければならないのでしょうね。

――「つくる」という部分で、私たちもクリエイターの人たちも、もっと行政に関わっていけるということはとても嬉しいことだと思います。

内野:
面白い企画をお待ちしていますよ(笑)。

――本日はありがとうございました。別世界と思っていた行政が、考えていたより身近なものと感じることができました。ひとりの住民としても、仕事面としても。

内野:
こちらこそありがとうございました。
倉橋:
これをきっかけに、少しでも多くの方に行政に興味を持ってもらえると幸いです。

内野優

1955年、海老名市で生まれる。大学卒業後は海老名市役所へ勤め、そののち海老名市議会議員を4期16年つとめ、2003年に海老名市長に初当選。以後、2007年、2011年、2015年の市長選で再選され、現在4期目となっている。

倉橋正美

1955年、海老名市で生まれる。専門学校で建築を学び、卒業後は㈲倉橋工務店に入社、現在は代表取締役を務める。1995年に海老名市議会議員に初当選。以後、1999年、2003年、2007年、2011年、2015年で再選され、現在6期目となっている。

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写真:海老名市提供