1. HOME
  2. イロドリ
  3. 科学とハートとアートの狭間 JohnHathwayインタビュー

FEATURE

イロドリ

科学とハートとアートの狭間 JohnHathwayインタビュー

イロドリ -イラストレーション業界の先駆者たち-

キャンバスに広がる空想世界。
圧倒的画力のJohnHathway、その現在に迫る。

イラスト業界の先駆者たちに、そのバックボーンや現在を語ってもらう本企画の第一弾はJohnHathway氏。どこまでも吸い込まれるような奥行きと、近未来とどこか哀愁を感じる独特の世界観は、日本国内だけでなく海外のファンをも魅了している。彼の“表現”は絵の中だけではとどまらず、ゲームやVtuber、システム、ハードウェアすらも、自らを表現するための媒介に過ぎないのだろう。その“表現”の根幹はどこにあるのか、そしてどこへ向かおうとしているのだろう。

UFOへの探究心と少女漫画への傾倒が原点だった

――だいぶご無沙汰してしまっていました。本日はありがとうございます。

(JohnHathway 以下JH)

JH:
そうですね。キックスターターで一緒に雑誌をつくっていた頃なので、5年くらい経ってますかね。

――そうそう! 懐かしいですね。そういえば、JHさんがなんでイラストを描き始めたのかということって聞いたことがないかもしれません。そこらへんからお話しいただけると。

JH:
幼い頃から絵は描いていましたが、それは人並みにという感じで。今の路線、つまり「創作」という観念で描き始めたのは中学生くらいのときですね。中高が男子校で、その環境が影響してか女性像を少女漫画の絵で感じるようになって、気が付いたら自分も少女漫画家を目指していました。

――確かに、現在描いている女の子にも少女漫画が根っこにはありそうですよね。

JH:
それにG’sマガジンなどに投稿もしていたのですが、絵で食べていこうとかはそんなに考えていませんでした。並行して、UFOから反重力とかのSFに出るような技術に興味を持っていました。それで、「いつかは自分で形にしたい」と思っていて、大学では物理を勉強することにしました。

――そこが「科学者」としてのJHの出発点ですか。今は何て名乗ってるんですか。

JH:
「アーティスト&サイエンティスト」ですかね。ずっと迷ってたりします、どう名乗るのがしっくりくるか。 その大学時代にオタクの友人がいて、誘われるがままにコミケに行きました。すると、翌年にはその友人が「出展しようぜ!」って。それで、腕が伸びたりする某有名漫画のパロディ本を作りました。確か1999年だったかな。

――ああ、麦わら帽子をかぶってたりするやつですかね。それが初めて形にしたものですか。

JH:

そうですね。島本和彦先生の『逆境ナイン』が大好きなので、その影響もたぶんに受けていました。そこからずっとコミケには出展し続けています。一度だけ抽選で落ちちゃったので、そのときを除いて。

一時期『ラグナロクオンライン』というゲームが特に人気ありましたよね。そのイラストコンテストで、準グランプリを2年連続でいただいて。そうこうしていたら、アンソロのお仕事のお話をいただきました。それが商業としての初めての仕事です。

――そのときはまだ学生ですか?

JH:
大学を卒業して、まだ物理の勉強をしたかったので院に進みました。正直、大学でもそんなに自分が求める勉強には到達できませんでした。なんといっても、目標が反重力ですから。やはりみんなは実用的な研究をするのですよ。でも進学先の院には、ロマンのあるいわゆる変人が多くいて。ここでなら自分の大好きな研究に近づけるぞ、と。

――では、大学院で研究を続けながらイラストを。

JH:
実は特別研究員みたいな形で、お給料もいただいていました。でも、副業が禁止だったのですよ。当時の心境をあまり覚えていないのですが、気が付いたら、イラストの仕事を取っていて特別研究員はその時に辞退していました。

ソフトもハードもすべてが表現の方法

――やはり原点から、科学者とアーティストという軸だったんですね。だから表現の幅が広いんでしょうか。

JH:
特別ということはないと思いますよ。人によって背景はそれぞれだけれど、僕にとっては軸が科学だったというだけで。物理学だけでは足りなくて、電子回路とかプログラミングとかいろんなものを勉強したからこそできる表現というのもあるとは思いますけれど。
それに、今でもまだまだ勉強し足りないです。物理学もそうですが、絵の勉強も。だってみんな上手いじゃないですか。今さら初心者本をドカ買いして、基本から勉強しようとしている最中です。

――たぶんそういうところですよね。僕も含め、もちろん自分に足りないものって自覚しているんですが、時間や体を削って勉強するってなると二の足を踏んでしまいます。それができるから、JHさんって次々と新しい表現ができるんじゃないですかね。

JH:
表現の幅を広げた転機というと、やはり一緒にやっていた雑誌づくりですね。といってもみなさん知りませんよね。日本のクリエイターを世界に紹介する雑誌を作ったことがありました。クラウドファンディングを利用して、出資者を募って。その出資者は日本というよりは世界中で、世界へ作品を発信すること、そして媒体からつくることでより表現の幅が広がりました。
あとはそれと並行してやっていた、『管コレ』。『艦これ』が流行っていたので、その語呂合わせが発端で真空管をモチーフにしたオリジナル世界観の同人カードゲームをつくりました。それがソニーミュージックさんの目に留まって、ドラマCDやスマホゲームといった展開をすることができました。
艦これの語呂合わせで作りはじめた『真空管ドールコレクション』
©Sony Music Entertainment (Japan) Inc.

――残念ながらスマホゲームはクローズしてしまったのですが、出来は良かったですよね。世界観もしっかり表現されていて、イラストも惜しみなく使われていて。

JH:
惜しかったですよね。バトルシステムなどが改善してきていたのですが。

――実は今でもその展開は続いてるんですよね。Vtuberとか。

JH:
アプリ『真空管ドールズ』から、5体がVtuberとしてデビューさせてもらっています。主に原作という形で関わっているにはいるのですが、 生放送は専門外で…。大局以外は本人やプロの方々を信じて私は余計なことは言わないように意識しています。ただただ勉強させてもらっています。

――他にもさまざまなことに関わっていると聞きましたが、それもやはり表現の一環でしょうか。

JH:
そうですね。今は、新しいブロックチェーンシステムを活用したアート作品であったり、大手電機メーカーと組んでハードウェア開発に関わっていますが、いずれも表現を具現化するための一環という感覚です。絵だけでは表現しきれない部分の、媒体が変わっているだけという。

――不勉強ですみません。ブロックチェーンシステムって、なんとなくはわかるんですけど、仮想通貨で利用されていたりするアレですよね。

JH:
通貨のことばかりが注目されがちですがそれは一つのブロックチェーンのアプリケーションです。大雑把に説明すると、通常のシステムって、管理サーバがあるじゃないですか。でも管理サーバを改ざんされてしまうと、そのシステム自体の信頼が揺らいでしまう。じゃあ、システムに関わっている人たち全員で監視しようというのがブロックチェーンシステムの考え方です。 デジタルの絵っていうのも、いくらでも改ざんやコピーされてしまうじゃないですか。でもこのシステムを使えば、少なくともシステム内では唯一無二であるという信頼が得られる。価値が揺らがないのですよね。一方、ブロックチェーンにはトランザクションという複雑な取引を処理する概念もあります。だからこそできる、「新しい絵の描き方」を開発中です。

――わかるようなわからないような(笑)。リリースされてからのお楽しみですかね。

“オタクとアートと少しのお金”さえあれば十分

――さて、イラストについても聞いておかないと怒られちゃうので。JHさんにとってのキャラクターってどんな存在なんでしょうか。

JH:
なくてはならないもの、自己から湧き出てくるものでしょうか。あくまでメインはキャラクターで、それが無い絵はあまり描きたくないかなって。もちろん、オファーの内容にもよりますけども。

――意外ですね。JHさんの代名詞のひとつが、果てしない奥行きのある背景だったりするので、重点はどこなんだろうって思っていたので。

JH:
やっぱり人物(キャラクター)ありきです。そのキャラクターが生きる世界っていうのはどんなものなのか、どんな世界に生きていて欲しいのか。つまり、背景も表現したいことの投影だと思います。
精巧に描かれた背景も人物(キャラクター)の一部

――表現したい世界を構築するために、3000、4000ともいわれているレイヤーを使って描いていると。

JH:
私がよく描いているキャラクターたちが住んでいる代表的な場所の一つが「魔法町」と言いますが、その場所を表現するために単純に必要な手法だったりします。

――あの世界観って、どのくらいの時代を想定しているんですか。

JH:
実は今でも変わったりしてます。作品を作るときはその時点の考えで最も適切な判断の上で作品をつくります。ですので時代を確定させることはできません。一言で言うと反重力物理が発見された近未来の図なのですが、たとえば内部のデザインは平成の流れを汲んでいます。近未来っていうと、漫画やアニメの世界では流線形の建物だったり乗り物だったりが多いじゃないですか。それはかつて雑誌などでも21世紀として描かれていたりしましたが、実際はそうなっていない。結局は少ない規制で各オーナーのセンスによる実用的な看板であったり建物であったりで、現在の街並みも構成されているのだから、未来もその路線は変わらないであろうと。

――言われてみればそうですね。そういえば、JHさんの作品って看板が多いですよね。

JH:
看板はモチーフとして高機能なツールでもあります。絵の中にどれだけの情報量を持たせられるか、を僕は重視しています。そういった意味で、看板は便利ですね。僕が画面を歪ませているのも同様の意味です。広い画角で描くことで、より多くの情報を伝えることができ、その分世界に深みが生まれます。また、人物のデフォルメも遠くほど強くして情報量を増やしています。キャラクターをより魅力的に表現するための方法を考えた結果ですね。
秋葉原ラジオ会館とのコラボ作品(現・秋葉原駅前の30mの壁画図)

――先ほど、絵の勉強をしていると言っていましたが、流行も気にしてたりはするんですか。

JH:
あまり気にしていないですね。なんなら無でやっています(笑)。あまり気にしていても疲れるじゃないですか。僕の場合は、表現したいことが明確に決まっているので、それを形にするためにただただ描いているという感じですね。流行に触れるという意味では、大学で授業を受け持たせてもらっているので、学生さんを見ることで“今”は感じることはできています。ただ、周りの情報は、本当に視野の端っこに映り込んでいるだけで十分ですね。

――大学で授業を持っているんでしたね。ちなみに、イラスト業界を目指す学生さんには、いつもどんなことを言っているんですか。

JH:
技術面はもちろんなんですけど、学生時代に「問題解決能力」を身につけようとは言っていますね。何かをつくりたいとなったら、その方法を調べますよね。そして、実現の計画を立てる必要が出てくる。すると、必要な材料や技術などがわかってくる。それでも失敗したら、何が足りなかったのかを考える。
結局、全部の工程で問題を一つひとつ解決していく繰り返しです。時には他人の知恵を借りることも必要なのかもしれませんが、個人戦になることが多い作家は自分で解決するという癖をつけておくことが重要と考えています。イラストで食べていくというより、社会で生き抜いていくために必要なことだと思います。

――確かに、JHさんって会うたびにできることが増えている印象です。

JH:
だって、表現したいことを形にするには今の自分じゃ足りないのですよ。僕はセンスも技術もそこそこだと感じています。別に下手だとは言わないけれど、それこそ普通のクラスの中でも2、3番目くらいの。でも問題にぶつかるたびに、それを自分の力で解決する努力はしてきた。だからこそ生き残ってこられたのだと思っています。でも社会に出てしまうと、必然的にまったなしの状況が多くなる。失敗がアーティストの死に直結することすらあります。だからこそ学生のうちに、たくさん失敗してたくさん解決しておいてほしいですよね。
あとは、“オタクとアートと少しのお金”。

――なんかそれ、すっごくわかる気がします。オタクっていうのは、いわゆるアニオタとかの意味じゃないですよね。

JH:
そうそう、なんでも突き詰めたい、知りたいという知的好奇心に近いですかね。そして、アートっていうのも、表現したいという軸を持つという意味です。別に「アーティストです!」ってドヤ顔をして欲しいわけじゃなくて。そして、あとは少しのお金の知識さえあれば生きていけると思います。お金の知識が無いと表現したい作品が作れないので。

――あとは自分が正解かどうかは、判断するのは世間であったりするわけですしね。

JH:
だから、少しのロジックも絶対に必要ですけどね。表現したいものを描いて、その長所を伸ばしていったのが現在の僕ですが。「やりたい」という気持ちは燃料になりますが、それを実現するためにはロジックも必要じゃないですか。実現するための方法論だったり、お金にするための仕組みだったり。そのハンドルが壊れちゃっていたら、いくら優れたエンジンと燃料を持っていてもあさっての方向に行ってしまいます。せっかくの燃料がもったいない(笑)。

イラストと音楽の融合への挑戦

――きっとJHさんのことだから、今後の展開とかもいろいろと考えているんじゃないですか。

JH:
また、新しい世界観のものをつくりたいですね。

――『管コレ』じゃなく?

JH:
実はいくつかもう考えてはいます。でもそれを表現するには、イラストだけでは足りなくって。一枚の絵で表すには、難解なテーマになってしまっています。だから、それがゲームなのか、映像なのか、文字なのか、音楽、もしくはハードウェアかもしれませんね。今は試行錯誤している最中です。

――ゲームも今後としては考えているんですね。

JH:
もちろんやるかどうかはわからないですよ。でもしっかり企画段階から関わってつくってみたいな、とは思っています。ただ、リッチなUIじゃなくって、ドットがいい、なんて。最近はドットも流行ってきたのでその先も何かないか思考しています。

――JHさんらしい(笑)。でも面白そうです。なんならお手伝いさせてください。ゲームもそうですが、音楽もイラストとは親和性が高いんじゃないですか。

JH:
僕に限らず音楽と絵は親和性が高いと思います。2年前くらいに海外でクラブミュージックに触れる機会がたまたまあったのですが、海外のEDMのフェスなんかはコミケに通じるものがある。なんらかの形で音楽フェスという場で、絵なのかテクノロジーなのか何か発信することができれば面白いと考えています。あ、フェス関係の知り合いがいたら紹介してください(笑)。

――いないですね~。でもちょっと当たってみます。音楽は現在も関わっているんですよね。

JH:
実はディスクジョッキーならぬピクチャージョッキー的なことをやってたりします。DJはいろんな音楽をつなぎ合わせて自分の作品としますが、僕の場合は絵でそれを目指しています。あらかじめ自分の絵を分解しておいて、ステージで即興でつなぎ合わせるライブパフォーマンスです。過去、音楽プロデューサーでDJのTeddyLoidさんとコラボをさせていただき、それがきっかけでこのパフォーマンスを考えました。
PJのイベントで使用したイラストの編集画面

――何それ!すごい!動画とかないんですか。

JH:
ここではダメです。私は人前に出るのが恥ずかしいので。あとでこっそりお送りしますね。

――相変わらず、もはや何屋さんだかよくわからないですね。

JH:
アーティスト&サイエンティストです(笑)。

――面白そうなことがあったら、ぜひ誘ってください。一緒にお仕事したいですし。本日はありがとうございました。すごく面白いお話だったので、また今度は違うテーマでお聞きできればと思います。

JH:
また何か違う展開が見えてきたらお声がけしますね。こちらこそありがとうございました。

JohnHathway

東京大学大学院物理工学専攻修士修了。同大学院博士課程に進学、学術振興会特別研究員を兼任。(専攻は物理工学:量子極限物理学)現、京都嵯峨美術大学客員教授。
少年時代に想像した反重力の世界を実現すべく物理学の道を進み、その後に表現者ともなり、絵画、ロボット、小説、装置、音楽、ソフトウェアなど、テクノロジーや世界観を融合させた作品群を創出している。最近はロボットと彫刻の中間物「Δ -Figure」(アルスエレクトロニカ 2014)や同氏の世界観ゲームアプリ「真空管ドールズ」、乗物型作品「MOVER」(神戸ビエンナーレ 2015)などの作品を発表、2016 年はスーパーフラットの潮流の展示である「Juxtapoz x Superflat 展」に日本代表アーティストの 1 人として海外展示を行った。2017 年は秋葉原駅前の「秋葉原ラジオ会館」の壁面に 30m 級の巨大壁画作品や「Yahoo!JAPAN」に縦 30 万ピクセル超の巨大 CG 作品「The Mother of Internet」を公開した。近年はハイテクプロダクトを通した表現方法を研究しており、大手電機メーカーとコラボレーションし新規ガジェットの開発&アートディレクションなども行う。