関わった人たちが費やした時間に応えたい

藤本善也氏インタビュー キリヒラク-時代の先導者たちに学ぶ-

『シノアリス』。このタイトルは、スマートフォンゲーム業界を変革したといっても過言ではないだろう。完全なるオリジナルであり、他タイトルとは一線を画すダークファンタジー。原作・クリエイティブディレクターには『NieR』シリーズのヨコオタロウ氏、オリジナルキャラクターデザインには新進気鋭クリエイターのジノ氏を起用という挑戦的な布陣で世間を驚かせた。そしてこの化学反応を後押ししたのが、スクウェア・エニックスのプロデューサー・藤本善也である。『シノアリス』を生み出したプロデューサー、そのバックボーンに迫る。


スマートフォンの登場を機にゲームのプロデュースへ

上原:『シノアリス』すごく面白いですね。お手伝いさせていただいている僕らとしても、やはりそのタイトルが面白くて、なおかつ好調だというのはとても嬉しいです。そんな人気タイトルのプロデューサーにも関わらず、お話を聞く機会をいただきありがとうございます。

藤本:そう言ってもらえると嬉しいです。でも僕はプロデューサーなので、つくってくれているのはさまざまな周りのスタッフなんですけどね。

上原:藤本さんは、いつから「プロデューサー」という仕事を始めたんでしょうか。

藤本:いつからと言われると、最初からですかね。大学卒業後、いきなりフリーランスで仕事をし始めているんです。そのときは、映像プロデューサーとして。もちろん、初めはプロデューサーになろうと思ってなったわけではなく、ある時に自分のやっていることを改めてみてみたら「これ、プロデューサーだ」って。
そして30歳くらいのときに、 旧エニックスで新規事業の企画開発担当者を募集しているという求人を見たんです。それで応募して、今に至るというわけです。

上原:最初からゲームを手掛けていたんですか。

藤本:ゲームのプロデューサーをやるのって、実は今回の『シノアリス』で2作目なんですよ。それまでは、もっぱら新規事業の企画立案に携わっていました。たとえば海外事業など、それこそビジネスのフレーム自体をつくるほうですね。

上原:ビジネスモデルをつくったりすることが主だったんですね。それがなぜゲームへ移行したのでしょうか。

藤本:いわゆる「フリートゥプレイ」のゲームが出現しましたよね。それまでのゲームの形が根底から変わったわけです。今までは、つくってリリースしたらそれで終わりだったものが、リリース後も半永久的に運営をしていくという形になりました。
すると、会社の中でも「やらなきゃいけない」という雰囲気になっていくのですが、社内ではできる体制がなかった。それで、いろんな人に声をかけて、自分を含めた5名で社内ベンチャー的にフリートゥプレイ企画開発運営専門の部署を立ち上げたんです。そこから、会社自体もスマートフォンゲームへ進出していって、僕自身もタイトルを立ち上げてという流れで。
結局、僕は新しいことが大好きで、なんならそれしかやりたくないんです。その点、スマートフォンゲームは新しいビジネスといえるでしょう。それまでの形を変えてしまうくらいに。


“価値のあるニッチ”が勝ちにつながる

上原:さまざまな分野でプロデューサーとして仕事をしてきて、新たにゲームへ。藤本さんは、プロデューサーの役割をどのように考えていますか。

藤本:プロデューサーといっても、おそらく媒体によって、会社によって役割はさまざまだと思います。だからこれは、藤本善也がコンテンツのプロデューサーとしてという話になりますが、まずはマーケットの中で特異なポジショニングを見つけ出すことですね。「これは誰もやっていないし、需要がありそうだ」というものを見つけて、パッケージを企画することがまず一歩目です。

上原:その企画に、さまざまな人たちを巻き込んでいくと。

藤本:プロデューサーは、自分ひとりでは何もできないですよね。だから、クリエイターに「一緒に仕事がしたい」と思ってもらえるものを持っていなければならない。それは、企画そのものの魅力だったり、お金だったり、コミュニケーション能力だったり。何かしらのメリットがあるからこそ、仕事をしてくれるんです。
そして、協力してくれるスペシャリストの皆さんが力を発揮できるポジションを用意して、継続するためにメンテナンスする。
バスみたいなものです。皆さんが行きたいと思うような行先のバスを用意して、適切な席に座ってもらう。

上原:100%の力を発揮してもらえるポジションを用意するんですね。

藤本:100%じゃないんですよ。プロデューサーが用意したバスと席が本当にいいものであれば、100%以上、120%の力を発揮できるはずなんです。相乗効果という魔法がかかるんですよね。

上原:確かに、誰かがいいものをつくれば、こちらもそれに応じたものをつくろうとしますからね。ただ、バスをつくることもですが、維持していくというのも大変そうですね。

藤本:そうですね、ゲームは完成までが長いですし、スマホゲームの場合は完成してからも続きがありますからね。
その長い期間中に、皆さんが常に力を発揮できるよう、気持ちよく仕事のできる環境を整えるんです。アクシデントの解決や、情報を露出する戦略であったり。

上原:プロデューサーに資質というものはあるんでしょうか。

藤本:逆に、「こんなプロデューサーにはなりたくない」という像はありますね。ディレクターあがりで、すごく実績が優れている人は別として、やたらと制作の中身に口を出す人です。自分が選んだクリエーターに任せることができないという人ですね。
そのクリエーターに頼むということは、力さえ発揮してもらえれば作品にマッチするということです。つまり、適したポジションを用意して、環境を整えられていれば、口出しする必要なんてないはずなんですよ。
口出しするということは、その時点でポジションであったり環境であったり、もしかしたら企画自体が破綻しているんです。

上原:確かに、「この人にやってもらいたい」という気持ちがあるから頼むわけですからね。

藤本:あと資質としては、「勝ちパターン」を自分の中にしっかり持っていることですね。

上原:それは過去の成功体験ということでしょうか。

藤本:もちろん体験からきたものでもいいですが、成功するための強みを持っているということです。そして、「勝ち」にこだわるということですかね。いや、「負けない」にこだわれるというほうが正しいかな。

上原:藤本さんの「勝ちパターン」とは、どのようなものなのでしょうか。

藤本:これは本当に個々で異なるので、あくまで僕個人のものです。それは「人と違うことしかしない」ということでしょうか。もともと古いものが嫌いで、新しいものばかりに目がいってしまうという性格もあるんですが、既存の枠にとらわれないものをつくりたいんです。

上原:ニッチな分野を狙うというのは、それはそれで大変そうですが。

藤本:そうですね、結局ニッチと売れるというのはイコールではないですから。市場全体も把握しつつ、ニッチの中でも独自のポジショニングをつくるんです。 “価値のあるニッチ”を生み出さない限り、ただの変わり者ですよね。“価値のあるニッチ”を生み出すには、お客様や市場をできるだけ知りたい、イメージしたい、という強い思いとそのための行動が大切だと思っています。
だから、プロデューサーとしての僕は、マーケターに近いのかもしれません。

上原:“価値のあるニッチ”ですか。それを見極めて、バスの座席に適したスペシャリストに座ってもらう。
そのプロジェクトに関わる“人”を選ぶ基準はあるんでしょうか。

藤本:人柄とかもある程度は大切だと思いますが、なによりどんなアウトプットができるかでしょうか。そのアウトプットがどれだけ人を動かせるのか。それがクリエイターの価値だと思っています。そして、そのアウトプットを発揮できるような空気づくりが僕の役割なんですよ。


数十人の時間を数年分預かるという責任

上原:これは皆さんに聞いているんですが、「やりたいこと」があるけれど、プロデューサーとしては「数字」を追うことも重要なミッションですよね。

藤本:プロデューサーって技術的には何かできるわけではないのですが、負っている責任というのは誰よりも大きいんです。プロジェクトを動かすだけで、すごく大きなお金、そしてたくさんの人たちの貴重な時間をもらっているんです。
そりゃ「やりたい」だけで動けたら楽しいかもしれないですけどね。でも、スマホゲームでは数十人単位の人たちが数年を費やすわけですよ。僕は失敗から得られるものは本当に小さいと思っています。たくさんの人たちの時間を預かるという責任を考えたら、数字を出せる企画をつくって、それを実現させることが何より重要じゃないでしょうか。

上原:規模はもちろん全く違いますが、僕らも企画を提案するということがあるんです。企画を通すコツってあったりするんでしょうか。

藤本:企画書は、パワポ1枚や2枚で言い切れなければならないと思います。その中で、「これならいけそう!」と決裁する側に思わせられなければダメだと思います。リスクについても、その2枚で直感的に「大丈夫そう」と思えるような内容です。

上原:確かに、企画の本質はひとことで表現できたりしますからね。

藤本:『シノアリス』のときもそうでした。本当に伝えたいこと、企画の芯の部分ってシンプルじゃなきゃいけないと思うんです。だから企画書は1、2枚。むしろ、それで伝えきれないことではダメだと思います。

上原:では、企画は「いける」と思ったらすぐに企画書にしてしまう感じですか。

藤本:いえ、何年もあたためておくことが多いですね。企画を出すのにも、効果的な時期があるので。いくら良い企画でも、マーケットが整ってなかったりするともったいないですからね。バスの発車時刻になるまでは、じっと待っています。


「既存の枠組みにとらわれない」から生まれた『シノアリス』

上原:プロデューサー論が面白かったので長々と聞いてしまいましたが、『シノアリス』についてお伺いしたいです。『シノアリス』とはどのように生まれたのでしょうか。

藤本:自分の中で一貫しているのが、「既存の枠組みにとらわれない」ということです。何か新しいものと考えていた時に、スクウェア・エニックスでは「アリス」を題材としたものがないと思ったんです。
それで、もともとお付き合いのあったヨコオタロウ氏に、「ヨコオさんのアリスが見たい」と話していたんですよね。ヨコオさんも「いいね!」と話してくれていたのですが、先ほどもお話した通り、僕は企画を着想してから機が熟すまでは寝かせておくんですよ。

上原:では、だいぶ前からヨコオさん版のアリスは、企画としてあったわけですね。

藤本:そうですね。するとあるとき、ヨコオさんに「早くやらないと他社でやっちゃうよ」と言われて(笑)。それで立ち上げたのが『シノアリス』です。

上原:原作とクリエイティブディレクターという形で、コンシューマーゲームで華々しい実績のあるヨコオタロウ氏を起用したことももちろんですが、メインキャラクターデザイナーのジノさんも話題となりましたね。

藤本:“ヨコオタロウのスマホタイトル”というだけで十分話題性はあるのですが、そのぶん誰に描いてもらうのかが重要でした。世界観やシナリオを、生かすも殺すも絵は重要なファクターですから。
そして、スマホゲームは新しいユーザーにリーチできる機会でもあると思うんです。コンシューマーゲームとはまた違いますよね。だからこそ、新しいチャレンジをしたかった。

上原:商業としては、当時のジノさんはそんなに表に出ていないといってもよかったですよね。

藤本:pixivとかでは人気があったんですが、商業としてはそうですね。何人か候補を挙げていて、その中で世界観とマッチしていて、なおかつ独特のタッチでプラスアルファしてくれる。その点でジノさんはぶっちぎりでした。

上原:それでも、実績という面でジノさんを起用することに躊躇はなかったんでしょうか。

藤本:組み合わせですよね。ヨコオさんにポケラボさん、それに音楽には岡部さん。その時点で、クリエイター陣はかなりの布陣になっているんです。だったら、ここはチャレンジしても大丈夫だと。
結果として、むしろクオリティ、話題性の両面で、ジノさんの起用は大成功となりました。

上原:ちなみに、ヨコオさんというとコンシューマーのイメージが色濃いですが、スマホゲームへの参加には抵抗はなかったのでしょうか。

藤本:ヨコオさんも新しいことが好きなんですよね。そこらへんは僕と同じで。だからスマホゲームには特に抵抗はなかったんじゃないでしょうか。

上原:ストーリーや世界観には、藤本さんが何か意見をするということはあるのでしょうか。

藤本:全くないですね。完全にヨコオさん主導です。なぜなら、「ヨコオさんがつくった世界観のゲーム」を見たかったから。僕はヨコオさんを信じていますから。

上原:先ほど、「自分はマーケターに近い」とおっしゃっていましたが、『シノアリス』の企画立ての際も、マーケティングはしていたんですか。

藤本:もちろんです。僕は商品をつくる際に、必ずユーザーのペルソナを設定します。仮想の顧客を自分の頭の中に描くんです。
だから施策を考える際には、常に背景にはそのペルソナがあるわけです。

上原:今回はどのようなペルソナを設定したんですか。

藤本:そこは企業秘密です(笑)。でも、ヨコオさんのファンは徹底的にリサーチしましたね。アンケートはひと通り目を通して、リアルイベントにも足を運んだりして。

上原:そういった土台があって、タイトルを盛り上げる施策が打ち出されるわけですね。

藤本:タイトルの中身はさまざまな人たちがつくってくれる。でもそれをユーザーへ届ける努力をするのは、プロデューサーの役目ですからね。
それで打ち出した施策のひとつが、事前登録の際にジノさんのキャラクター設定画をアップしたことですね。

事前登録時に公開されたキャラクター設定画
事前登録時に公開されたキャラクター設定画

上原:あれは斬新でしたね。正式リリース前に、キャラクターの設定画を公開するという。

藤本:マーケターとしての自分がいて、その情報をもとに「新しい」と思ってもらえる仕掛けをしていく。せっかくクリエイターの皆さんにいいものをつくってもらえたのなら、たくさんのユーザーに届けたいですから。

上原:『シノアリス』の根幹というか、どういったブランディングをしているのでしょうか。

藤本:公式サイトのTOPページにすべて集約されていますね。そこに『シノアリス』のブランディングのすべてがあるので、読み取って想像していただけると嬉しいです。

『シノアリス』のすべてが集約された公式サイトTOPページ

上原: 最後になりますが、今後はプロデューサーとしてどんな挑戦をしていきたいでしょうか。

藤本:それは今までもこれからも変わりません。お客様に新しい価値をお届けできると思えるものなら、いろいろやりたいです。
新たな体験をプロデュースしてお客様に届ける。これが、プロデューサーとしての自分の役割だと考えていますし、関わってくれた人の時間に応えられるようなものでなければならないと思っています。それはゲームであるかもしれないし、そうでないかもしれないですね。

上原:「新しい体験」ですか。今後も、僕らを驚かせるような企画を期待しています。
本日はありがとうございました。

藤本:こちらこそ、ありがとうございました。いい写真、使ってくださいね(笑)。

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「SINoALICE」(シノアリス)について
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■クリエイター
・原作・クリエイティブディレクター:ヨコオタロウ
・音楽:岡部啓一・MONACA
・オリジナルキャラクターデザイン:ジノ

藤本善也

株式会社スクウェア・エニックス所属。いまや、スマートフォンゲーム界有数のヒット作ともいえる『シノアリス』をプロデューサーとして手掛けている。それまでは海外事業を手掛けるなど、ビジネスの枠組み自体をつくるということが多く、ゲームのプロデュースという意味では『シノアリス』は2本目にあたる。



あびーん

広告ディレクターのあびーんです。週に一度はおなかが痛いことが目下の悩み。おなかさえなければ人生が7割増しで楽しいのではないかと思っています。 漫画編集をやったり、フリーランスになってみたり、メーカー側でディレクターをやったり、またフリーになってみたり。プラプラしてます。その日が楽しく、お金も稼げたら悔いはありません。

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