日常も仕事も、もっと面白く。

仁井谷正充氏インタビュー キリヒラク-時代の先導者たちに学ぶ-

サンバード社長・上原庸輔が、お話を聞きたい人を勝手に選んで勝手に取材する本企画。第二弾は、『ぷよぷよ』シリーズで一世を風靡した、コンパイル〇株式会社代表取締役の仁井谷正充氏。ワンアイデアで成功を手にしたものの、自己破産へ。絶頂と谷底を経験しながらも、いまなお衰えないエンタメに対する情熱とは。その半生と、今後の展望を語ってもらった。


『 ぷよぷよ』は遊び心の集大成

上原:本日は、お忙しい中ありがとうございます。なんというか、感無量です。僕なんかは、ドンピシャのぷよぷよ世代ですからね。あの『ぷよぷよ』をつくった仁井谷さんが目の前にいるんですから。

仁井谷:今の子たちは知っているんですかね。

上原:少しゲームをやる人だったら、少なくとも『ぷよぷよ』とコンパイルという名前は知っているんじゃないでしょうか。あとは仁井谷さんのことも。

仁井谷:ひょっとしたら、顔だけは知っているとかかもしれないね。テレビにも出ていたりしたし。

上原:今日は、そんな仁井谷さんの波乱万丈人生をお聞きできればと。あとは仕事に対する考え方とかですね。
まずは、なぜゲームクリエイターを目指したんでしょう。

仁井谷:僕は大学を中退しているんです。7年くらい在籍したかな。当時は学生運動がおおいに盛り上がっていたころで、僕も没頭していました。そののちに、広島電鉄で車掌をやったり、学習塾の経営もやったかな。

上原:では、そのころから経営という視点だったのでしょうか。

仁井谷:経営に目を向けるようになったのはもう少し先。ある会社に営業職で入ったんですが、僕以外の社員がパソコンについて無知だったんです。僕はパソコンを触る機会が以前から多く、知識もあった。そのせいかわかりませんが、徐々に社長と確執が生まれたんですね。
そこで「人の下で仕事をするとスポイルされる」と感じました。結局は、自分で仕事をするしかないと考えました。

上原:もともとゲームをつくるための基礎知識はあったんですね。

仁井谷:親父がApple Ⅱを買ってくれたので、ちょこちょこいじっていました。当時のゲームってオープンソースのものが多くて、そのソースを真似てプログラミングのようなことをしていましたね。

上原:そこでついにコンパイルを設立したんですか。

仁井谷:そうです。1982年だったかな。それで、まだ全然軌道に乗ってないころに、知り合いからSEGAさんの請負仕事を紹介されたんです。そこから直取引を始めて、アーケードゲームの開発を続けていました。

上原:そんななか、『ぷよぷよ』はなぜ生まれたんでしょう。

仁井谷:きっかけは、『テトリス』のヒットです。そのころ、ゲームの開発期間であったり開発費が年々嵩んできていたんです。でもテトリスがヒットした。あのゲームってシステム自体は簡単なもので、ある程度できるプログラマーならひと月あればできるようなものだったんです。
そこでコンパイルのような小さな会社がヒットを生むためには、アイデアこそすべてなのだと悟りました。そこで「落ち物ゲーム」にトライして、何度目かに『ぷよぷよ』が生まれたんです。

上原:どのような点がヒットの要因だったのでしょう。やはり、ブロックにもキャラクター性を持たせたことですか。

仁井谷:テトリスもそうですが、そののちに『ドクターマリオ』がヒットしました。いわゆる、ゲームにキャラクター性を追加した落ち物ゲームですね。そこから、さまざまなメーカーがドクターマリオの亜流をつくることに挑戦しました。ただ、突き抜けるようなものではなく、ただのまがい物でしかなかった。
だからこそ、コンパイルでは“もどき”ではなく突き抜けた亜流をつくることで、オリジナルのものにしたかった。その肝となるキャラクターは、ユーザーと実際に交流して意見交換をしながら制作しました。

上原:突き抜けた亜流はオリジナルである、ということですか。さまざまなヒット作を思い返すと、その言葉は真理ですね。

仁井谷:突き抜けるというのも大変ですけどね。開発側が、「これをやったら面白いじゃん!」というアイデアをどんどん詰め込んでいかなければ驚きは生まれない。ぷよぷよは、そんな遊び心の集大成のようなものなんです。

上原:遊び心の集大成ですか。確かに、キャラクターのセリフひとつとっても、つくる側が楽しんでいるのが伝わってきます。
『ぷよぷよ』のヒットで、一気に会社が大きくなったんじゃないですか。

仁井谷:そうですね。社員は最大で400名ほど、売り上げも約70億円に到達したと記憶しています。


大きな母体で必要だった人と情報

上原:ここからは、ちょっと聞きづらいのですが…。『ぷよぷよ』シリーズのヒットののち、コンパイルは倒産しているわけですが。

仁井谷:大丈夫です、昔のことなので。当時はわからなかったんですが、今振り返ると失敗には3つの原因があったと考えています。
ひとつは、コンパイル本社が広島にあったことです。やはり、地方は東京と比べて情報が3年くらい遅れている。アメリカからはもう3年遅れていたんじゃないかな。もっとゲーム業界の中枢に食い込みたいと考えていたのですが、そのためには東京近郊でやるべきだった。

上原:現在ほど、インターネットが身近な存在ではなかったですからね。情報が遅いゆえに、意識にも差が出てしまうことは否めないですね。今ではその差もほとんどないですよね。

仁井谷:そう、今ほど情報網が発達していればよかったのかもしれません。もうひとつ、それと関連しているけれど、地方では部課長職を務められる人間があまりいなかった。いわゆる僕の右腕ができなかったんです。とはいえ、無能というわけでなくて、技術職としては優秀だったりするんですよ。ただ、大局を俯瞰してのマネジメントが致命的にできなかった。だから結局、僕が全権を握ってしまって、歯止めがきかなくなってしまったのかなと。

上原:ゲーム業界の趨勢であったり、それを加味した仁井谷さんの意図をくみ取れなかったんですね。ちなみに、三つ目はなんでしょうか。

仁井谷:これはもう物理的なものです。いろんなメディアでも言っていますが、資金ショートしたんですよね。社員を急速に増やしたり、『ぷよぷよランド』というテーマパークをつくろうとしたり。

上原:『ぷよぷよ』で一時代を築いてやろう、ということだったんでしょうか。

仁井谷:それもあるけど、上場の誘いがあったんです。うまくいけば、数百億単位のお金が入ってきて…と考えると。それで、上場のためにはさらに売上を伸ばすことが必要だった。それで、『ぷよぷよ』をテーマにしたディズニーランドのようなものをつくろうとしたんです。結局、企画もすべて自分でやろうとして、この失敗が経営破綻を加速させてしまった。

上原:それこそ、自分の意図を理解してくれて、ときにはストッパーの役割も担ってくれる右腕が必要だったんですね。

仁井谷:そうだったんでしょうね。そののち、いろいろあって2004年にコンパイルは消滅しました。以降、紆余曲折あって2016年に立ち上げましたのがコンパイル〇になるわけです。


『ぷよぷよ』の問題点への答えが人生の宿題

上原:なぜ再びコンパイル〇としてゲームをつくろうと思ったのでしょう。

仁井谷:『にょきにょき』シリーズをつくりはじめたのは、コンパイル〇を立ち上げる少し前になります。『ぷよぷよ』には問題点があったと感じていました。その答えを出すことが人生の宿題だったんです。

上原:よくできたゲームだったと思いますけど、どのような部分が問題だったのでしょう。

仁井谷:大きくふたつのことがあると思っています。ひとつは、連鎖を極めるようになるまでに3~5年はかかってしまうこと。もうひとつが、マスタークラスと初心者が対戦すると、必ず初心者が負けてしまうことです。つまり、さまざまなレベルの人が集まったとして、誰もが楽しめるわけではないのです。

上原:その部分を改善したものが、『にょきにょき』なんですね。

仁井谷:そうですね。『にょきにょき』の試作型を、ユーザーさんに毎週遊んでもらったんです。半年間、ずっとです。
すると、誰もが一時間以内に遊び方を把握できて、自分なりの作戦を立てることができていました。そして、遊びに来た誰もが楽しめていたんですね。その様子を見て確信しました。『ぷよぷよ』を超えることができると。

上原:それで起業するに至ったんですか。

仁井谷:起業したのは、任天堂さんに「これを出したいんだ!」と持っていったら、とりあえず会社にしてくださいと言われたんです。まったくお金のあてはなかったんですが、必要だったので起業したという感じですね。

『ぷよぷよ』の問題点を改善した新作『にょきにょき 宇宙征服編』

(C)COMPILE-〇 INC. / (C)D4Enterprise Co.,Ltd.
(C)COMPILE-〇 INC. / (C)D4Enterprise Co.,Ltd.

プラスアルファの積み重ねが“新しい”に

上原:『ぷよぷよ』をはじめとして、数々のヒットを生み、いまなお『にょきにょき』で挑戦している。ヒット作を生み出すための条件とはなんでしょうか。

仁井谷:これは経験則でしかないのですが、そこそこゲームを遊ぶことが好きで、ゲームをつくることに真剣なメンバーが揃っていること。そのメンバーが同じジャンルのゲームをつくり続けていれば、だいたい4作目くらいにはヒットすると思っています。

上原:得意分野を持っているチームが、どんどん深掘りするということですか。

仁井谷:深掘りするためには、どんどん改良していく必要があります。そのためには、常に自らのアイデアを出し続けなければならない。だから同じチームでやる必要があるんです。作品に対して真摯であれば、企画の内容やジャンルはあまり関係ないと思っています。

上原:仁井谷さんが、チームを組むとして、そのメンバーに求めるものはなんでしょうか。

仁井谷:まずは、最低限の知識を備えていることと、その知識に貪欲であることです。自分がそうなんですが、既存のものにプラスアルファしなければ生きていけない人種っていると思うんです。ゲームの内容だったり、イラストだったり、音楽だったりプログラムであったり。いろいろな分野のプラスアルファが積み重なることによって、よりよいゲームになっていくんです。

上原:常識というか「当たり前」とか「こうであるべき」に捉われないということですか。

仁井谷:そう、今あるものをぶち壊す力ですね。あとは、絵と音とロジックがある程度わかるということも重要です。それは、必ずしも描けなくていいし、演奏もできなくていいんですが、頭の中で思い描くくらいロジックを知っていてほしいですね。想像ができるからこそ、他の人に伝えたり、作品に落とし込んでいけるので。

上原:きっと、ゲームづくりだけでなく、他の業種でも一緒ですよね。ある程度のレベルで知識がないと、伝えることすらできない。

仁井谷:会議であったりアイデア出しの際に、同じくらいのレベルで話せないとどこかで意識の相違が生まれてしまいます。
あとは、つくるときではないですが、その人の所作が気にならないというのも大事ですね。これはパートナーの条件に近いかと思います。

上原:確かに大事ですね。同じ会社だったとしたら、毎日一緒に過ごすわけで。気になってくると一緒にはいられなくなりますし。
実際、開発において最も大切にしていることはなんでしょう。

仁井谷:時代の波の一歩先を想像することでしょうか。“今”を理解しつつも、絵も音楽もすべての面で一歩先を見据えるんです。それを手に入れたいのだけれど、ないから自分でつくってみようとなるわけです。
“今”を知るためには、たくさんの成功事例を知る必要があります。それを頭の引き出しにしまっておく。そして引き出しを開けたり閉めたりして、「ああでもない、こうでもない」と、さらにプラスアルファをしているうちに新しいものができあがるんです。


『にょきにょき』を定番のゲームへ

上原:何をするにも「お金」は重要なファクターだと思うのですが、仁井谷さんにとっての「お金」とはなんでしょうか。

仁井谷:普通の人と同じですよ。天下のまわりものです。あえて言うならば、面白いと思うことを実現するためのツールでしかないですね。だから身の丈に合ったサイズで十分ですね。
今は目先の、『にょきにょき』をヒットさせるために使っていきたいです。そこから、次の展望が見えてくるとさらに必要になってくるかもしれませんが。

上原:お金は仕事のためのツールですか。その仕事というものは、どういった存在でしょうか。

仁井谷:これも他の人と同じですよ。生きていくために必要なことです。

上原:生きていくために必要だから、仕事でプラスアルファをしていく。

仁井谷:それは少し違う。プラスアルファは僕が生きている限りはし続けるんです。それは日常でも、仕事でも、どんなときでも変わらない。だって、日常だってもっと面白いほうがいいじゃないですか。
これは、使命感とかそういうことでもなく、やりたいから、やるしかないからやっているんです。

上原:きっと仁井谷さんにとっては、日常と仕事の境目がないんでしょうね。面白いことを実現する、それがたまたま仕事というだけだった気がします。
今後は、どんな展開というか目標を考えているのでしょうか。

仁井谷:まずは『にょきにょき』をNintendo Switchで発売すること。それから、オリンピックでeSPORTSの正式種目にしたいですね。

上原:なかなか遠大な野望ですね。

仁井谷:もともとは『ぷよぷよ』のプロをつくりたいと思っていたんです。だから『にょきにょき』だってつくりたい。囲碁や将棋のように、しっかり職業として成立するようにできたらいいですね。
法的に難しいは難しいんですが、「定番のゲーム」としてプロがあってもいいじゃないですか。「プロになりたい」という人が増えると、今よりもっと幅広い世代にも受け入れられる。そんなゲームをつくっていきたいんです。

上原:『にょきにょき』のプロ、見てみたいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。また次の展開をお聞きしてみたいです。

仁井谷:こちらこそありがとうございました。よろしくお願いします。

仁井谷正充

1950年、広島県出身。現コンパイル丸株式会社代表取締役。株式会社コンパイルの創業者であり、『ぷよぷよ』シリーズの爆発的ヒットにより一時代を築いた。のちに、ニンテンドー3DS用のソフト『にょきにょき たびだち編』を開発。コンパイル丸は同作の発売のために立ち上げられた法人である。現在、Nintendo Switch版の『にょきにょき 宇宙征服編』を開発中。
コンパイル〇株式会社:https://www.compile-o.com/
Twitter:https://twitter.com/compile_o


あびーん

広告ディレクターのあびーんです。週に一度はおなかが痛いことが目下の悩み。おなかさえなければ人生が7割増しで楽しいのではないかと思っています。 漫画編集をやったり、フリーランスになってみたり、メーカー側でディレクターをやったり、またフリーになってみたり。プラプラしてます。その日が楽しく、お金も稼げたら悔いはありません。

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